2015年2月17日火曜日

ケンタロウのレシピ

2週間ほど前だったかと思う。

本屋さんで小林カツ代さんの『小林カツ代のおいしいがいちばん!』という、エッセイ寄りの

レシピ本を立ち読みした。

その中に、「葱ゴマ焼きめし」というレシピが出てくるのだけど、

そのレシピというのは、カツ代さんではなくて息子のケンタロウさんのレシピだと紹介されていた。

阪神淡路大震災の時、2人は動物保護団体の人たちへご飯を作りに行くということを

2年ほど続けたらしい。

人間よりも動物を優先するだなんて・・・という非難もあったらしいけど、

とにかく自分たちができることをやろうということで、周りの批判は脇に置いて、

自分たちの意志を優先させたようだった。

その団体の人たちの多くは菜食主義者で、それこそ震災直後は食べ物の流通も止まって、

あるもので調理をせざるを得なくて、そちらには何がありますか?とケンタロウさんが聞いて、

その中で生まれたのが、ごはん・長葱・ゴマ油・塩・しょうゆ・白ゴマ・胡椒で作る焼きめしだった。

材料・手順をささっと携帯のメモに打ち込んで、家でも実際に作ってみた。

初めて食べた時、あまりのおいしさにびっくりした。

材料はとてもシンプルだけど、本当にとってもおいしい。

香りも、ゴマ油と長葱と白ゴマのコラボレーションで、食欲をそそるものだった。

しかも、調理時間5分もかからないような簡単スピーディーな一品で、

ガスをたくさん使わなくても良い点も、当時はとても助かったのではないかと思う。

カツ代さんは亡くなってしまったし、ケンタロウさんはあのバイク事故の後、今もリハビリ中なのか

テレビには一切出ていない。

本当かはわからないけど、最後携帯で見たニュースによると、胃ろうと呼ばれるものを

取り付けたらしい。もしそうなら、経口摂取が難しいが故の選択だろう。

料理家として、口から物が食べられないのであれば、絶体絶命のような状態なのではないかと

勝手に想像している。

今亡きカツ代さんと、今表には出てこないケンタロウさん親子が紡いだ1つのレシピは、

全然関係のないわたしの元へ届いた。

そして身も心もそのレシピで満たされる。

あまりにおいしくて、わたしはこの1週間足らずで2回作っている。

初回も2回目も、ふと、たくさんの不幸と呼ぶ出来事の前でも、人が人に与える力の強さは

必ず存在する、そしてそれはいつかの未来、全く関係のない人にまで伝播する、

そんなことを感じながら、熱々の葱ゴマ焼きめしを口に運んだ。

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