ーーー月曜日
緊急の短い英訳依頼がきた。
頼んだ人は、頼みに来た時には女上司にも私にもにこやかな表情でお願いしていた。
ちなみにこの人は先月、クレームの内容についてどう英訳をしたらいいか確認しに行ったら、自分は担当じゃないからわからないと言って逃げた人だった。
今回はにこやかだったし、その時に後でお伺いしますと私も言って頭を下げて挨拶して、普通に感じ良く頷いていたから、普通に対応してもらえるものかと思った。
実際に伺ったら、さっきのにこやかな雰囲気とはうって変わって、冷たく面倒くさそうに対応された。
その中に専門用語があって、それは調べても英語名はわからなかったと言ったら、じゃあそこはカットしようと言われた。
さらには一文、そもそもの意味がわからなくてそれも聞いたら、自分もわからないと言う。
そこは濁されたまま、だけど私からすると毎回意味不明な日本語がくるから、それがどうわからないのかは私は素人だからわからないんだろうと思って、まぁ聞いた内容で訳そうと思った。
その際、「確認」という単語が文章内に連発していたから、私はその確認がどの程度の確認が必要なのかを聞いた。
機械のスイッチが入っている確認から、機械内部の具体的な動きがプログラム通りに動いているかテストして確認することまで色々あるから、程度によって言葉が変わる。
なのにそれを聞いたら「確認って何が違うの?」と面倒くさそうに返され、程度によって英語は言い方が変わること、少しの確認なのか強制的に絶対的にやってねの確認なのか、どちらなのかを聞いて選んでもらった。
その人は私の英語の師匠トムさんの上司で、トムさんに英訳に関して1つ聞きたいことがあるからトムさんに質問したいと申し出ると、それに関しては二つ返事で快諾してくれて、トムさんに自席から「英語の件で今から質問いくからよろしく」と言ってくれた。
ホッとして、トムさんに質問に行った。
ちなみに私が聞きたかったのは「目視」についてだったけれども、ついでに「確認」もしょっちゅう出てきては困る言葉の1つだから、一緒に質問した。
関係ないけれども、確認とかも英語にすると言い方が多岐に渡る上、それぞれの言葉の使い方が英語の場合違うから、それもけっこう毎回迷いどころになりやすい。
で、「確認」の時に、口頭説明よりも実際の文章を見てもらった方が早いと思って、さっき質問していた資料を直接トムさんに見せた。
トムさんが「武士俣さん、これどういう意味ですか?」と、例の上司が意味がわからないと言った文章について私に聞いてきた。
私は聞いた内容のメモをそのまま読み上げて、トムさんにはこんな風に説明を受けたと言った。
するとトムさんはその紙を持って「ちょっと聞いてきます」と言って、上司のところに行った。
トムさんも同じように「これ、日本語の意味がわからない」と言った。
そう、これは私みたいに知識がないからわからないだけじゃなく、知識ある人からしても日本語が変で意味が通じていなかった。
なんなら写真まであるのに、それでも意味が通じない凄技を持つ文章だった。
トムさんが確認すると、やっぱり技術者2人が揃っても意味が通じなくて、それで最終的にトムさんが原稿作成者に電話を入れて、文章の意味を確認してくれて、それでようやく意味がわかるようになった。
なんと、一番大事なポイントの言葉そのものが抜けていて、その言葉が入ることで初めて意味が通じるようになっていた。
さらに上司の方が「これはじゃあ消そう」と言った言葉も、トムさんが「これは〇〇で、こっちは⬜︎⬜︎」と英語名を書いて教えてくれた。
トムさんのナイスアシストで事無きを得て、トムさんにお礼を言って席に戻った。
日本語の原稿も変更して、そしてそれから英訳をした。
英訳を終えてから、依頼メールに返信しようとよくよくメールのやりとりを見た。
いつもメールはすごく長いから(数人なり数回のやりとりの添付がついている)、よほどのことがなければ最後にまとめてサラリと読む程度にしている。
私はてっきり機械の手順書かと思っていたら、たしかに手順書は手順書だったけれども、私の想像していた手順書とは全く違っていた。
長いメールを読んだら、なんと「機械停止」とあった((((;゚Д゚)))))))。
何これ?手順書じゃなくて、機械が止まってその機械の復旧方法ってこと!?
やたらと確認、確認とほぼ全ての文章に確認とあった意味もようやくわかったし、意味がわからないけれども写真が短い割にやたらと添付されていたのも納得した。
何よりも驚いたのは、それだけ非常事態なのにも関わらず、担当者のお偉い方は超適当な対応で、なんなら英語名知らないものはカット、「確認」も何が違うのかと言い出し、さらにこの文章の要のところはわからないまま放置した。
文章の要となるその手順は、復旧できたと確認する一番大事なステップにも関わらず、何だそれ?状態だった。
しかもこれはメールを読んでいて思ったけれども、メールのタイトルと私の訳したものとが全く合致しない。
ということは、恐らくだけれど、機械停止の状態だけでは、私の英訳部分は本当の専門職なり設計者でなければ導き出せない解決策なのではないかと思う。
そんな超大事なものなのに、原稿作成者もだしお偉い方もだけれど、スーパー適当過ぎて私には絶句並みの酷さを目の当たりにした。
もしトムさんがいなければ、しかもあの時別にトムさんにその今回の依頼内容を質問したんじゃなくて、大元は「目視」の言い方を知りたかったのと、そうだ!ついでに「確認」の言い方も聞いておこう!と思って確認したに過ぎなかった。
それが結局のところ、今回の超大局の部分の英訳そのものを救うことになるなんて、誰が想像できただろうと思う。
こんな綱渡りみたいなことしていて、真面目に大丈夫なのか?と思う。
私じゃなくて会社が。
ーーー火曜日
月曜のそんなワタワタしていた午後に、別件の長編英訳の依頼がきた。(図や写真含めて15枚もの)
これもまたおかしな話で、火曜日だったのか水曜日だったのかに、この英訳を誰がどう使うものなのかの確認を部長経由でしてもらった。
部長経由になったのは、私みたいな下々の人間では依頼メールにあった内容しかわからず、そして相当色々と厄介なものが中に含まれていたから、私の上司の判断で部長経由での確認が必要となって、それで確認してもらった。
元々本社に行くものとは聞いていたけれども、それは機械のメインテナンスや保守点検的な時に現地に出向くエンジニアの人が使う資料とのこと。
日本人の人が使うらしいけれども、私は違和感を覚えた。
現地に出向くぐらいだから、少なくともその本人は英語を使える。
これは私だけかもしれないけれど、基本的に自分で書いた英文じゃないと、私は自分が説明する側なら読んで口頭説明することが相当難しい。
英文は日本語の作文と一緒で、それぞれの人の書き方のクセや言葉のチョイスがある。
私の英訳師匠のトムさんは「自分が書くとit isで始まる文章がどうしても多くなってしまう」と言っていたけれども、反対に私はそうは書かない。
固有名詞や動詞を名詞の形にした動名詞を主語にするから、itはほとんど使わない。
それぐらい人によって差があるから、だから一番いいのはその資料を使う本人が訳すこと。
しかも点検とかで口頭説明するなら余計と自分の言葉じゃないときついよ!?と思ったけれども、なぜか私のところに来ていて、私が訳すこととなった。
ちなみにこれは後々にわかることだけれど、この英訳こそが色んなことを水面下で調整する超秘密兵器的なものに発展することになる。
そう、普通に考えて本社対応に最初からすればいいものをなぜか新潟の工場に資料はやってきて、そして回り回って私に英訳が来た。
何かと言えば、私から見ると今回の長編英訳は「神々の審議会」的な回し者で、そしてそこから先は今の天体エネルギーの山羊座の冥王星(破壊と再生担当)と土星(成熟した社会の在り方に合うように徹底的な調整・介入担当)に大きく反映したものだと思う。
火曜日の時点で担当者と女上司とそして私の個人の3人で話した時に、まずは1枚訳して時間がどの程度必要かを算出することになった。
これもまたおかしな話なんだけれど、なぜか私のパソコンで見るとデータが壊れていて、本来15枚のものが25枚に変わるという珍現象が起こった。
まずはその直しを他の人たちにお願いすることになって、私は私で英訳を始めることになった。
女上司からの助言で、1枚目を訳した後はまず日本語を全て見てそれでその意味のわからないことを先に質問した方がいいかも!ということで、私はまず15枚分の日本語の不明点を全部抜き出した。
担当者Aさんにもその旨伝えて、Aさんの方で原稿作成者の現場の人に連絡を取ってもらって時間を作ってもらえるようにお願いをした。
Aさんにも残業でいるなら、夕方に質問の時間をもらえるようにお願いをした。
夕方になってAさんとやりとりした時のこと。
Aさんは3つほど確認が終わったところで
「これ明日もあるからここまでにしましょう」
と私に言った。
Aさんは自分がこの文章の取り扱いの責任者なのに、何て適当なのかと私は心の中で違和感を覚えていた。
まぁでも明日は現場で聞くからいいかと思ってそのままにした。
ーーー水曜日
担当者Aさんに言われた通り、お昼前に1階の現場に行った。
超できる人だとAさんは説明していたけれど、本当に噂以上に超できる人が紹介された。
若手スーパーリーダーと名前を付けたい。
若手スーパーリーダーは本当に仕事がめちゃくちゃできる人で、これまで20人近く当たったエンジニアの中で英訳師匠のトムさんと雰囲気は違うものの、トムさんと同じタイプのめちゃくちゃできる人且つ人柄も素晴らしい人だった。
15枚ある資料は現場用語満載で、私の質問も本当に細かくて多かったけれども、若手スーパーリーダーは嫌な顔1つせず全部付き合ってくれた。
「確認」じゃないけれども、言葉の意味がはっきりしないものは一緒に考えてくれたし、話してもらったものを聞いて私がその場で文を作り直したら、それも見てもらって全部これで大丈夫!とか、ここ意味が変わってしまったのでこうして下さいとか、本当の本当に超丁寧に見てくれた。
トムさんの英語サポートを除いて、これまでのエンジニアの人たちの中で断トツで一番丁寧に見てもらえた。
途中、何人かの人が若手スーパーリーダーのところに質問にやってきた。
質問にも的確に全部答えているし、部品があれば部品の裏に刻まれた最低でも10桁はあるだろう部品番号を見て「これで合ってる」と言ったり。
はたまた不具合が起きた機械の図面を持ってきた人がいて、その図面もその場で何がいけないのか全部チェック入れて、この部分だけ合ってるけど残りは全部間違えてる、後で自分ももう1回よく見てみると言っていた。
とにかくテキパキしているし、まるで頭の中にコンピュータがあって、そのソフトのごとく即答して質問に答えていた。
リーダーより一回り以上年上のおじさんたちも2人か3人来て、リーダーに確認していた。
本気の実力で上がったリーダーなんだとわかった。
最後に私は若手スーパーリーダーにお願いをした。
もし可能なら火災探知機を見せて欲しいと。
1月の終わりに火災探知機の内容を含むチェックリストの英訳をした時に、そのスイッチにまつわる英訳と日本語の説明が全く違うことに気付いて、大騒ぎした時があった。
他社製のもので、取扱説明書も他社から来たものをそのまま使う仕様になっていた。
まさか取扱説明書が間違えているなんて思わないから、私は自分が間違えてるのかと思った。
それがどの機械の取扱説明書を見てもみんなそうで、そこでようやく取扱説明書自体が問題あると知った。
取扱説明書は去年の秋の終わりに改訂されていて(というのを私が騒いで確認したことで初めて判明した)、それで本来なら取扱説明書の入れ替えをしないといけないんだけれど、それもずっと滞ったままになっている。
さらにはその火災探知機のスイッチオンにすることを忘れないためのチェックリストの英訳だったのに、なんならそここそが一番重要なチェック項目なのに、そちらも随分とあっさりとした扱いでそれにも驚いた。
だから私はそれというのは、おそらく間違うことなんかないし、見てすぐにわかるものだからみんなそんな適当な対応なんだと思い込もうとした。
そうだと自分も知れば安心すると思って、それで若手スーパーリーダーに頼んで見たいとお願いした。
リーダーは機械の近くに行くと、その近くのエンジニアに声をかけて、工具をいくつか借りてきた。
私は何してるのかと思ったけれども、まぁ何か必要なのかな…と思ったら、全然違っていた。
なんと工具なしでは、火災探知機は取り外すことさえできない外付けの小さな装置だった。
普通に大学ノートを横にしたくらいかそれより小さな大きさで、まずは取り外すだけでも普通のネジ回しではなく特殊な形のネジ回し風なホックみたいなものを使って数ヶ所開けていた。
それで取り外すと、今度は火災探知機本体を開けるためにまた別の工具を使って数ヶ所のネジを外した。
外した後も箱は開けにくくて、多少ガタガタと左右に動かすとようやく開く代物だった。
そこまでで3分は確実にかかったし、私の感覚では数分かかっていた感じがした。
しかもリーダーは手慣れた手つきでやってその時間だから、不慣れな人がやったらもっとかかる。
中を見てさらに驚いた。
なぜか英語版も日本語表記のみ施されているスイッチで、超不親切と取説を見ていつも思っていた。
まさか中身は携帯やパソコンの中身みたいな電子盤になっていて、スイッチは私の小指の爪の縦半分ほど、1センチ程度の長さで、スイッチオンなのかオフなのかの表記部分はものすごく近くまで寄らないと見えないくらいに小さな文字だった。
リーダーに事の顛末を話して、これが実際の出荷の時はどういう状態で出されるものかを聞いた。
やっぱり間違えて作動するといけないから、スイッチオフにして出されるとのこと。
そして、あんなチェックリストが作られるぐらいだから、当然何か不都合があって(要はスイッチの入れ忘れ)作られてるのがわかるのに、その事の顛末を伝えたら担当者は「適当で大丈夫」と答えていて私からして驚きだったことも言った。
リーダーもそれ聞いて「はっ( ̄^ ̄)!」ってなっていて、誰が言ったのかまで言い当てていた。
リーダーも普段からそうしたやりとりが起こりそうなことをよく知っているのだと思う。
そのやりとりに対して明らかに蔑視していて、そういうまともな感覚を持っているリーダーを見て心底ホッとした。
この件に関して、初めてきちんと反応する人に出会えた。
リーダーは1つ落ちてしまったネジも探しつつ、火災探知機を元に戻すべく手を動かしていた。
私はリーダーにお礼を言って、そして事の顛末は今の英訳が終わったら上に掛け合ってみようと思いますと言って帰ってきた。
この時点で私は何で今回現場に行ってまで質問に行くことになったのかわかった。
前任の人は現場に行ってまで質問をしたことは一度もなかった。
女上司いわく、過去に1人、機械の動きとかを見たいから見せてもらうために行った英訳担当者はいたらしいけれども、私みたいに現場の人が作った資料という理由で現場の方に出向いて質問に行ったのは初めてのようだった。
少なくともその部署に20年近くいると思うけれども、それくらい見慣れないことがなぜか今回起こって、それで質問に行くぐらいになった。
毎日機械の横を通っては、火災探知機のスイッチはどこなんだろう?と常々思っていたけれども、今回のことがなければ永遠に知る事のないスイッチだった。
そして、その難解な状態を見て、他の人たちの温度差というか適当さに驚いた。
ちなみに当たり前だけど、スイッチオフのままだと火災探知機は作動しない。
万が一火事が起こっても作動しない。
とかいうことが発覚した。
さらに言うと「スイッチオン」「スイッチオフ」みたいな単純な表記ではなく、「運転中」並みに漢字のみで表記されていて、英語バージョンの機械を入れる海外の現場では、確実に搬入時にスイッチを入れ直さないと大変なことになる。
完全に闇側の本当にいけない状況を知ることとなってしまった。
水曜日は本来NO残業デーで帰る日なんだけれども、終わらないから残業申請出して3時間使ってとにかく聞いてきた日本語の内容を書き直した。
文字のフォントや大きさ、見た目とかは直す暇もなく、これは翌日に他の人にお願いする他ないと思った。
私はいい加減英訳を始めないと終わらないから、とにかく一刻も早く英訳に着手しないとやばかった。
だから、日本語の直しのところまでをやり切った。
やっている途中で、どうしても日本語側で変なところがあって、それについて担当者のAさんの指示がなければ私の方で勝手には直せないから、それを質問しに行った。
最初は隣りの人と話していて、時間かかりそうな雰囲気だったから退散して、また30分くらいしたら出直すことにした。
Aさんは日中は現場に行ったりして席にあまりいないから、逆に定時後の方がつかまえやすい。
その時もまだ隣りの男の子と話してはいたけれども、それでも私が近くに行けば何かしら声をかけてくれるだろうと思って席のところの近く、Aさんには目にガッツリ入る位置の、隣りの席の男の子のななめ横くらいに立った。
Aさんは間違いなく私に気付いた。
だけど隣りの子との話をやめない。
変なところで区切れないのだろうと思ってしばらくは私も待った。
2分ないし3分は待った。
それでもAさんは一切私に何も言ってこないし、目も合わせようとしなかった。
さすがに私の方がしびれを切らして、お話中すみませんと割り入った。
すぐに質問は終わるけれども、出直した方が良ければ出直す、もし今1分とかもらえるならこの場で聞かせて欲しいと二択を提示した。
Aさんではなく隣りの男の子が「どうぞ」と言った。
Aさんは感じ悪そうな雰囲気で嫌な顔というか、「何で邪魔すんだよ!」みたいな顔になっていた。
私は言葉の通りさっと質問をして、Aさんのはっきりしない答えにも半分イライラしながら、だから私は全て「YES NO」で答えられる質問の形に変えて、それで質問してその場を後にした。
私が立ち去った後、2人は話すのかと思いきやそんなことはなく、別に私を待たせてまでしなきゃいけない仕事の話でもなかったんだというのもわかった。
誰がこの仕事の責任者で、誰が英訳を依頼しているんだろう?と思った。
これが部長とか役職の人が行っても同じ対応をしたんだろうか?とか、あんなに急いでやらないといけないって言っていた言葉はただただ言葉の綾なのかと思った。
若手スーパーリーダーの対応がピカイチ過ぎたのもあって、Aさんの対応はものすごく残念で怒りと失望しかなかった。
ーーー木曜日
女上司に進捗状況を報告して、そして日本語側の文章を文字や見た目を統一して整える作業を同級生の子にお願いした。
私は私で英訳をひたすら進めることとなった。
女上司も前日の夕方のAさんの対応には心底がっかりしていた。
それ酷すぎるね、誰の仕事なんだろうね?と全く同じことを女上司も口にした。
悲劇はその後起こった。
同級生の女の子、同子ちゃんとしよう。
同子ちゃんから日本語側の資料の体裁的な部分を直してもらうことになった。
その部分を実際に直してる同子ちゃんからあれこれ質問されて、質問されたことに関しては答えられるものは答えたし、内容になると私にはわからないから「わからない」と答えた。
実際に「参照」することが多くて、その参照の言い方に関して聞かれた。
参照するものは同じでも、その全部を参照する時と一部の手順のみを参照する時とまちまちで、そこは実際にリーダーから説明された時にこれは1だけ、これは全部、これは1と2というような説明を私は受けた。
その言い方がまちまちなのがわかりにくいからこの言い方に統一したいと同子ちゃんは言った。
同子ちゃんの言い分はごもっともで私もそれに異論はなかったけれども、ただいかんせん内容は技術的なもので、その番号を指定することの重要度がどの程度重要で、それを追加説明的に言っていいのか、それとも確実に指定された手順を遂行して欲しいのか、その差がわからなかった。
だからそこは確認すると言うと、そんなことしなくていいから、1つのやり方を示して「これでいいですか」と聞けばいいと言われた。
今書いていると私もどうしてそこまでこだわったのかわからないけれども、少なくとも私は素人の自分の判断で中身を変えることだけは絶対にしたくなかった。
同子ちゃんは、そんなのはきちんと原稿を作成しないエンジニアたちが悪いと言った。
だから私がそこまで丁寧にする必要もないと。
だけど私からすると、私のところが基本的に最後で、多くのものは確認なしで一気にお客さんに直で渡るか、はたまた他言語に翻訳されるために翻訳会社に回るかする。
いくらエンジニアの人の国語力や作文能力が問題であっても、そこで質問して本当の日本語の意味を知って、それでその日本語に書き直さないことには英語だけいきなり新しい話になっていて、日本語と英語が全く違うことになってしまう。
それは私にはできない。
同子ちゃんは私に「そんなの、こちら側の責任じゃないんだから、直訳してそれで相手が困って、それによってエンジニアの人たちが恥をかけばいい。もしこっちで請け負ってしまったのなら、みんな適当に出してきて、誰かがやってくれるからいいだろうってなって、まじめにやらない人が後を絶たなくなる。そこまでやる必要はない」と言った。
私は今回の現状については言った。
「今回は現場の人たちが細かな指示を一切もらわずに作っている。現場の人たちは機械をいじるのが仕事であって、今回みたいに手順書を書くことが仕事じゃない。今回は依頼があって初めてやっていることで、その人たちにその本来のクオリティを求めること自体が私は違うと思う。向こうは機械のプロでも説明文を書くプロじゃないからね。
だから本来は担当者のAさんがもっとやらなきゃいけないと思うけれども、Aさんは基本的に丸投げでノータッチ。
私はそのままじゃ訳せないからどうしても聞かなきゃ英訳はできない。
聞いたら今度は新しい説明が追加されたり言葉が変わったりする。そこは日本語も直さないと、日本語と英語で違うことになってしまう。だからそのままにはできない。手間ではあるけれども、私の方で勝手に違う言葉にはできないし、日本語を勝手にも変えられない。私は言われたものをそのまま訳すしかできない」
そのような話の後に同子ちゃんから言われた。
「余計なことをして、それで仕事が遅くなっている」
その通りではあるけれども、果たしておかしな日本語を直すのが「余計なこと」で、それはやらなくていいのか私にはわからなかった。
ちなみにどのくらい内容が変わるかと言えば、
「私が話す」
「私に話す」
ぐらいに意味が変わる。
私「が」話す時は私が話し手になるけれど、私「に」話す時は他の誰かが話し手で私は聞き手になる。
月曜の英訳にもそういうのがあって(というより、確認不要なパーフェクトな日本語説明文にまだ一度も当たったことがない)、それも確認した。
「Aが、ホースの端から排出されてB方向に向かって上昇する」
「ホースの端から排出されるAが、B方向に向かって上昇する」
上と下とでは、主語も変われば、実際の内部の動きも変わる。
こういうレベルの英訳をしているわけで、本当に1つ間違えるとその文章全体が意味が通じなくなったり、はたまた意味が変わったりしてしまう。
私が確認するのは、そういうことも含めての確認で、だから適当な直訳は危険極まりなくてできない。
そういうのも含めて遅いなどと言われると、正直なところ、私はどうしていいのかわからなかった。
私が本当に頼まれもしないことをしているならわかるけれども、実際の英訳をするとなれば、そして多くのものは私が最後の英訳文章を作成・校閲する係なら(これもまたどうかとは常々思ってはいるけれども)、やり切って間違えたらすみませんだけど、やることをやらずに適当に出すのはやっぱり違うと思う。
で、はたから見てどう見えているのか知らないけれども、12月とは比べものにならない英訳量がやってきていて、女上司も過去最高の仕事量と言うほどだから、本当に異常は異常なんだと思う。
不慣れ且つ工業知識ゼロの素人な私+意味のわからない日本語+質問して日本語直し+英訳、掛けることの大量の文章、となればもう遅くて当たり前だし、これまでみたいに「日本語→英訳」だけとならない私みたいなのがやっているから、どうしても手間はかかる。
余計なことして遅いと言われて、まじめにやってそんな言葉で私は泣きそうになった。
グサっと心に引っかかった。
そして、きちんと対応してくれた若手スーパーリーダーが悪く言われるのも嫌だったし、他の誠意ある対応をしてくれた他のエンジニアの人たちのことも思い浮かんで、それは違うんだけどなぁというのを思った。
同子ちゃんとこれ以上話をしてもラチがあかないと思って、とりあえず今言ってもらったように言って確認するからと言って終わらせた。
自分の席に戻って英訳を再開したけれども、私には余計なことをしている、遅いと言われたことがものすごく引っかかったままだった。
言葉もそうだし、そして果たして直訳して出すことがこの流れの解決策になるとはとても思えなかった。
ただ同子ちゃんが言うように、仕事が遅いのは本当だし、日本語を直す作業が追加であるから余計なことをしていると言えばしている。
それで英訳が遅くなるのもその通り。
個人的に10数人とやりとりして思ったことは、エンジニアの人たちに日本語力や作文能力を求めてもこれはかなり難しい。
本来なら社を上げて国語力強化に出ないといけないとは思うけれども、現実的にその時間も取れなければ、その人たちにそれを求めて今日言って明日直ったり改善したりするのは見込めない。
言うならば彼らも機械のプロであって、言葉のプロじゃないから、そこを求めても仕方ない。
もっと言うと、現場には現場にしか通じないスラングみたいな言葉があって、現場ではそのスラングで通常困らない。
そしてみんな常用しているからおかしいとも思っていない。
なんだけど、私みたいなど素人からすると、「えっ?」みたいに毎回なる。
今週やった英訳に
「テーパーリーマーをかけ直す」
というのがあった。
そもそもテーパーリーマーとはなんぞや?みたいなところからスタートして、そして説明されて意味はわかったけれども、それに該当する英語の動詞が今度はわからない。
なんなら私はアメリカ人のエンジニアサイトに飛んで、そこで検索までした。
私のパソコンのお気に入りに入っているお助けサイト( ̄∀ ̄;)。
現場の人たちが緊急トラブルの際に互いに知恵を交換する超イケてるサイトをたまたま発見して、それ以降私の超お気に入りサイトとなって、言葉がわからない時はいつもそこを見ている。
私は内容はどうでもいいから、例えば今回の「テーパーリーマー」ならその単語に対しての動詞がわかればそれで良かった。
色々見たけれども「これだ!」ってのがなくて、他にもネット検索したけれども出てこなくて、最後はトム師匠にメールした。
私が作った例文も書いて、だけど本来ならどう言うのがいいのかを聞いたら、想定外の言葉で説明された。
トムさんの英訳は
「穴を(リーマーで)広げる・整える」
だった。
おぉー!!!となった。
そう、テーパーリーマーをかけ直すというのは、そのリーマーという道具を使って、金属なんかの塊に穴を開けて、そこに留めネジやらを入れられるようにする行為を指す。
今回はすでに空いてる穴に対して再度テーパーリーマーをかけるから、「かけ直す」になっていた。
一事が万事こんな調子なわけで、これは聞かなきゃ絶対にわからない。
これは手間だけど省くわけにもいかない。
ただ同子ちゃんの言ったことも本当で、私のしていることは確かに余計な日本語版の加筆訂正が相当数生じるから、それに乗じて仕事も増える。
そして本来の英訳はさらに後回しになる。
だから二択になる。
・効率やスピード重視で中身は適当に作る
・中身重視で、仕事増えるのとスピードが落ちるのは覚悟してもらう
もちろん、中身も良くてスピードも速いのが一番だけど、現状の私では難しすぎる。
だから、これはもう私の判断では無理だと思った。
今回みたいに日本語側の仕事も増えると、そしてさらに構成がぐちゃぐちゃになっていてそれもあると、構成の修正まで出てきてさらなる手間が増える。
パソコン操作の修正を私にさせたら丸一日がかりになるから、当然他の人に振られる。
色々仕事が増えて、今回みたいに同子ちゃんや他の人のところに行くことも出てくる。
そうした実情をどうするがいいのかは私にはわからない。
そんなの私は決められないし、会社がスピード重視と言えばそうするし、中身重視と言えばそうする。
だから、もうそれはまずは女上司に相談して、それでもどうにも答えが出なければ、派遣会社通じてそこを確認してもらおうと思った。
女上司も決定権を持っているところではないし、それは会社のやり方の話だから、話がややこしくなりそうなら私が引っ掻き回すよりも、派遣会社入れた方が早いと感じた。
夕方、女上司の席の電話が鳴った。
電話に出ると若手スーパーリーダーからだった。
日中、日本語を直した資料を届けに行った。
その時も即座に対応してくれて、きちんと見て、それで違う点があれば連絡くださいとお願いしたものだった。
実は1つだけ、リーダーではなく体裁を直した同子ちゃんから、リーダーの指摘の通りに作るとわかりにくいから省いた方が良いとなって、あえて省いたところがあった。
リーダーはその点について問い合わせをしてきた。
それを省く代わりに別の図で言葉を足したことを説明して、リーダーはモヤッとしていた風だったけれども、一応納得はしてくれた。
そのやりとりをした後、自分の中ではっきりと決めたことがあった。
現場の人たちに話を聞いたら、もうそれが間違えていようとそのまま私は作ることにしようと。
リーダーの言ってきたことは、実はお客さん目線の話で、私もそれがあった方がわかりやすいだろうと思った。
同子ちゃんの方は正確性を重視したもので間違いではないけれども、現場の人間からするとおそらくリーダーの指摘した内容の方がわかりがいいんだと思う。
リーダーの人間性や仕事の仕方をほんの短い時間でも見てきたことで、私はリーダーがとても信頼のおける素晴らしい人だというのはわかった。(同子ちゃんももちろんきちんとしている)
で、最後その人たちの声を届けられるのは自分なんだとわかった。
なぜなら私しかその話を聞いてないから、私しか発信が最後はできない。
現場に渡る資料なんだから、現場の声を第一にすること。
そういう変な迷いに対して、私自身もきちんと自分の方向性を出さないといけないと思った。
リーダーに申し訳なく思いつつも、本当の本当にたくさん勉強になった今回の一連の英訳だったなと思った。
ーーー金曜日
午前の早い時間に女上司から呼ばれた。
またドカドカっと英訳依頼が来ていることのお知らせだった。
本当に英訳依頼が止まらない( ̄ཀ ̄;;)。
しかも次から次へといくらでもやってくる。
そんなことを話している間にも別件の英訳の仕事が入ってきたほどだった。
その時に女上司の方から言ってくれた。
「武士俣さんが取り組む時、また今回みたいに先に日本語を見てもらって、わからないところは聞きに行ってもらって、それで英訳する流れにしましょう」
これはチャンス!と思って重ねて聞いた。
「じゃあ今回やこれまで同様に、日本語が大幅に変更する時は日本語側の資料も訂正して、それで英訳するのでいいですか?」
「そうしましょう。手間かけてしまうけれども、それでいきましょう!」
「手間は全然いいんです。そうして良いなら、私の方も英語と日本語が食い違わないので、そちらの方がやりやすいです。日本語がかなり変わる時は、日本語の原稿を聞いたまま直します。それで大丈夫ですか?」
「そうしてください。大変だけど、よろしくお願いします」
だから、大袈裟な話し合いとかはしなくても、日本語訂正することも含めての英訳にOKが出たから、そのやり方で今後もやれることになった。
これなら同子ちゃんにも上の判断でそれをすることになったと言えるし、それで仕事(日本語の訂正)増えて遅くなるのは仕方ない( ̄∀ ̄;)。
これは私が思っていることだけれど、これまでもこの日本語と英語の違いに関しては大きな問題だったと思う。
女上司も間違いなく毎回そうだから慣れてはいても頭を抱える問題になっていたと思う。
これまでは、適当な解決方法もなく、とりあえず英訳のみを出すやり方でやっていた。
ところが全く事情を知らない私みたいなのが来て、とにかく私は頼れるものがないから基本的に質問をあれこれ技術者にする。
そうすると、日本語は大幅に変更になったり、言葉が追加されたりする。
そうなると、元原稿からは想像もできない英訳に仕上がる。
私がそれが非常にまずいと感じたのは、例の火災探知機の英訳と日本語とを見たからだった。
他社の取扱説明書であったけれども、日本語と英語で誰がどう見ても違う
手順さえも日本語と英語で違っていたのなら、それは内情を知らない第三者からすると混乱の他の何物でもない。
それを避けるためにも、極力日本語と英語に差がない方がいい。
女上司もそれを一緒に見て実際に本気で頭を抱えていたから、だからそこはものすごくよくわかってくれていた。
で、私の英訳は少なくとも最後女上司が最低限のチェックはしてくれるから、女上司も私の直した日本語を見て英訳をチェックする。
だから女上司としても、意味不明な現場用語よりも誰が見てもわかる日本語の方が読みやすいし、他言語に翻訳するための原稿を出すにも極力一般的な言葉での英語文の方が絶対に助かる。
これまではスルーされていたところが、私のわからないレベルによってテコ入れされることになり、そしてそのやり方こそが組織にとって本来なら適切な方法なんだと思う。
とにかく、手間暇は余計にかかってもより相応しい方法に落ち着いてくれて良かった。
そして長編英訳にもようやく終わりが見えてきた。
ーーー週明け月曜日
清々しい気持ちで月曜日を迎えた。
例の若手スーパーリーダーから指摘された図の部分は、私の方で再度リーダーの言った通りに書き換えた。
そうこうしているうちに、若手スーパーリーダーから電話がかかってきた。
なんとわざわざ原稿について「内容に問題ありませんでした」とそれを言うためだけに電話をくれた。
その後追加で質問があった際も、快く時間を作ってくれた。
その時に直した図に関しても確認してもらって、リーダーの満足した表情を見て、直して良かったと思った。
リーダーには、今しか伝えるチャンスはないと思って伝えた。
これまで20人くらいのエンジニアの人とやりとりしてきたけれども、リーダーが一番丁寧に説明してくれたこと、おかけでとっても助かったことをお礼と共に伝えた。
その時にリーダーはこんな風に返してきた。
「いやいや、これを英訳する方が大変なので、大したことはしてないですよ」
この人はさすがだと思った。
本当によくしてもらったし、どんだけでも私が必要なだけ時間も割いてくれた。
そして素人の私がわかるように説明してくれて、言葉も私に丸投げせずに最後まで一言一句と言ってもいいくらいに確認もしてもらった。
すごい労力を割いてもらったのに、大したことないとサラリと言って、そして初めてだった、英訳する方が大変だと言ってもらえたのは。
別に大変だと思って欲しいとかいうのはないけれども、その労力をきちんとわかってもらえたのは初めてで、それはとっても嬉しいことだった。
これは私個人の統計だけど、自分の専門分野をきっちりやる人は、他の専門職の人にも敬意を表す傾向が強い。
自分の得意分野を知るようにその人たちは自分の不得意分野も知っている。
そして自分はその不得意分野ができないとか苦手だと知っているからこそ、それをする人たちに敬意を素直に表している。
リーダーはまさにそのタイプだった。
月曜日にはまた追加で英訳依頼が来た。
整理すると、
・英訳資料が7本ないし8本(1本あたり3〜5ページ)
・難解技術書が英訳されたものの和訳の確認が2本(各8ページ。ちなみに日本語は平仮名しか読めないぐらいにわからなかったけれども、英語はちょっとだけ見たら英語の方が簡単に書かれていて読めたから、とりあえずホッとした←日本語が弱すぎる(苦笑))
・スペイン語の怪しい訳の確認が1本(Google翻訳に頼る予定だけど、すでにマニアックな固有名詞が間違えて訳されていることが判明)
・あと少しで完成の10数枚ものの英訳が1本
はっきり言って私のキャパなどとうに超えた量の英語関連の仕事が目白押しで、何なのかと思う。
上に書いたものだけで、すでに12月の時に2人でやった英語のすべての量の10倍近い量がある。
明らかにおかしい( ̄∀ ̄;)。
連日残業しても終わりが見えないくらいに何かやってきている。
なんとなく、英訳は入口で、実際はその中の闇に葬られては困るものをきちんと救出するために来ているんじゃないかとさえ思っている。
そうだ。
月曜日、リーダーに超助けてもらった資料の中に、機械の最終確認なのか途中の機能確認なのかのチェックリストからそのまま抜き出す言葉があって、なんと、そのチェックリストの英語バージョンの中の英訳なのか日本語なのかが間違えているのを発見Σ(꒪◊꒪; )))) 。
それかなり意味変わるけれど大丈夫!?っていうぐらいのもの。
言うなら、1つは静止でもう1つは作動、くらいに意味が違う。
女上司に報告して、とりあえずトム先生に確認、そして真相がわかったら最後は担当者に報告。
するけれども、一事が万事こんな風に何かを引き当てるから、本来の仕事から少しずつかけ離れた仕事も追加でくる( ̄◇ ̄;)。
ちなみにスペイン語だって、再度翻訳依頼になるだろうけれども、それに当たっての追加の小さな資料作りは避けて通れないと思う。
絶対におかしな訳になりそうだから、予め翻訳に出される前にきちんと資料を作ったのに、それ読んでくれたのかくれなかったのか…。
なんならそれに近いだろうスペイン語の言葉まで探した私…( ̄∀ ̄;)。←他の言語に訳される時は、もう賭けみたいなものだと思う。
本気でカオス過ぎる。
とかいうカオスな渦の中に入っている今日この頃。
あといいところ3ヶ月ないし4ヶ月の仕事だと思うから、あとは自分の体と心が壊れないようにやれるだけやろうと思う(←どういうわけか、体は絶対に動くように調整が為されていて、神々の審議会から何かしら調整するものが送られて来ているとしか思えない( ̄∀ ̄;))。