真っ先に出てきたのは、紙に書かれたその人の名前だった。
自分でも最初にそのシーンが出てきた時、ものすごくビックリした。
それはまだ建物に入る前のことだった。
来客用入口には、何かあったら連絡くださいみたいな、中身の文章はまるっと忘れたけれども、とにかくそんなことが書かれた紙に、社内の人と思しき名前があった。
私は勝手に名前から、50代くらいのおじさんよりおっさんの方が似合いそうな風貌、もしくは職人気質な頑固オヤジみたいな人を想像して、社内のお偉いさんなんだろうと思いながらその名前を見ていた。
見た時間は本当に一瞬で、数秒にも満たなかったと思う。
だけど、今回当時を思い出した時、何度もそのシーンを思い出してわかった。
普段人の名前を全くと言っていいほど覚えなければ、名前を見て何かを思ったり感じたりすることはほぼほぼない。
しかもその名前は、全国どこにでもある名字だし、武士俣と違って、読めないなんてことは100%ない。
下の名前も特別に強烈な印象を残すものとは違う。
そちらも読み間違いとか100%ないだろうし、音も変わったものではない、普通にある名前だった。
だから名前自体は何の特徴も特にはないのに、私はどういうわけか猛烈にその名前を鮮明に記憶して、だけど意識の中での私は初日に向けてものすごく緊張していたから、名前どころではなく、そんなことを思ったことさえ忘れて、そして社内に入った。
その日は今思えばフルキャスティングで大御所たち全員がいた。
数ヶ所派遣に行ったから余計とそこが特別だったのが今ならわかるけれども、まず関係者の面々全員から名刺をもらうことはない。
私の記憶が間違っていなければ、そこが初の全員から名刺をもらった職場だった。
その日4枚の名刺を1人1人から手渡されたけれど、あの入口の貼り紙の主を見て驚いた。
Σ(꒪◊꒪ )))) ?\(ΦдΦ)/?(@_@)?
えぇっ!?この人が!?〇〇〇〇さん!?
その人は、おじさんでもおっさんでも頑固オヤジでもなく、もちろんガテン系よろしくでもなく、本気のイケメンだった。
最近出てきた若い俳優の子の顔にとても似ているけれど、普通にテレビに出ていてもおかしくない、正統派イケメンだった。
名刺と本人とを見比べて、思わず私は交互にガン見したかもしれない。
それくらい、名前の印象と本人とにギャップがありすぎて、ものすごく驚いたことも覚えている。
顔といい背格好といい本気のイケメンで、私が人生で出会ったイケメンたちの中でナンバー1と呼んでもいいくらいのイケメンぶりだった。
イケメンはさらに爽やか笑顔で「〇〇です」と自己紹介して、色々意表を突いた入口の名前の人物の登場だった。
そんな風にして始まったその人との出逢いだった。
これは今だからわかること。
何一つ印象に強く残る名前じゃない(←言い方が失礼だけれど、わかりやすくするために)。
なのにものすごく強くそのシーン、それも名前を見た時の自分の心の動きが強烈に残るというのは、それはもう通常とは違う出会いであることを示していた。
当時はそんなこと全くわからなかったし、指折り何社目みたいな派遣先の1つでしかなかったし、そして「事務職」という私には始まる前から不安しかない不慣れ感満載な仕事で、色々それどころじゃなかった。
だけど、3年という年月を経てわかった。
当時の多くのことは忘れているし、思い出すこともほとんどない。
なんだけど、最初に建物で日かげっぽくなっていてでも「朝」とわかる空気感の中で、その人の名前を見て色々思い巡らせたこと、そのシーンがとびっきり強く残っている。
周りの風景や外の空気感や陽の具合まで覚えてるなんて、普段のポンコツ記憶力からは考えられない偉業なわけで、それだけその人の名前を見た時の感覚は他に類を見ない、とっても特殊なものだった。
そんな風に誰かの名前が強く残るなんてことは、思い返せばその人が人生初なんじゃないかと思う。
きちんとお知らせとしてやってきた感覚だったと今になって思う。
魂メイトの登場!!!
パンパカパーン*¨*•.¸¸☆*・*¨*•.¸¸☆*・゚
ってな具合に、あの名前の景色は私の記憶に瞬時に刻まれた。
それをまさか3年後にものすごく強く思い出すなんて想像さえしていなかった。
あの日の風景やあの日目の前にその人が私の前に現れる感じとか、その時はある日のある風景でしかないと思っていた。
時間が経てば普通に忘れて、新しい明日と共にどんどん忘却の彼方に葬られる、そういうものだと思っていた。
ところが3年経った今、それがどれだけ特殊で特異で特別だったのかがよくわかる。
今日の10時過ぎにパソコンの時計を見た。
ふと思った。
その日その人は、社内で唯一と言っても良かったかもしれない、仲良しさんにLINEを送った。
私の名字がツボだったようで、それをわざわざ知らせたようだった。
その時その人は何を思ってそのLINEを送ったんだろう。
意味なんてなくて、単なる思いつきだっただけなのかもしれない。
これは私の勝手な想像だけど、私にとってもその人の名前がどういうわけかインパクト超絶強かったように、その人にとっても私の名前、正しくは名字はインパクトが強かったのかもしれない。
だけど、そもそも「武士俣」なんて、人が一生のうち1人に会うか会わないかぐらいの激レア名字だから、それで反応したに過ぎないかもしれない。
全ては謎に包まれたまま、3年が過ぎた。
3年が過ぎたからと言って、何が昨日と今日で変わることもなければ、連絡するような仲にもならないのは3年前と何ひとつ変わらない。
私はいつも「いつ連絡くれてもスーパーウェルカムなのに٩(ˊᗜˋ*)و」と思っている。
とか思っても、なんならこうして発信しても、音沙汰ゼロなのは、普通に考えて「連絡したくない」んだろうと思う。
魂たちは、今生再会さえ果たせば、ミッションコンプリートなのかもしれない。
そして、また再会したければ、「じゃ、来世で!」ということなのかもしれない。
魂側もせめてせめて身の丈に合った魂メイトにしてくれたらいいのに、相手は正統派イケメンというだけで、しかも人生で出会った一番のイケメンとかいうような人なわけで、状況はおいしいとかめでたいのとは違う。
近寄りがたく、近付きがたく、仲良くなるなんて夢のまた夢状態だった。
他にもう少し書きたかったけれども、強力な睡魔には勝てない。
0 件のコメント:
コメントを投稿