わたしの記憶の中にしか存在しないもの。
もう生涯そういったものたちと出会うことはないだろうとずっと思い込んでいた。
思い込んでいたというより、もうそんなこと全部忘れていた。
そうしたら、この10日くらいで、わたしの目の前にこつ然と現れて、
わたしを心底驚かせた。
ひとつは、「たいつり草」と呼ばれる小さな花。
ひとつは、「バナップル」という日本名の果物。
ひとつは、ザ・ブルー・ハーツの『情熱の薔薇』の歌詞。
この3つは、わたしの人生のある局面にひょっこり登場し、
その時は若さゆえ?、性格ゆえ?、すーっと通り過ぎてしまった。
まさかこんなに年月を経て、もう一度わたしにその姿を見せて、
当時はわからなかったことが胸に染み入るとは、人生何があるかわからない。
*たいつり草*
10日ほど前の夕方、名古屋城からもじったと思われる「名城公園」へ散歩に出かけた。
名城公園内には、小さなフラワーガーデンがある。
とっても人工的ではあるけれど、四季折々色んな花がある。
その時はチューリップが最盛期と言わんばかりに咲き乱れていた。
「チューリップ」と一口に言っても色んなチューリップがあって、
小さなガーデン内をわたしはぐるぐると練り歩きながら眺めていた。
そのチューリップの合間に、わたしはこれまで一度もお目にかかれなかったその
「たいつり草」を発見した。
足を止めて、しゃがんでその花をまじまじと見た。
色は違えども、あの時とおんなじ花だ、まちがいない、同じ花だと確信し、
花の名前が書かれている小さなプレートを見て、それが「たいつり草」という名前だと知った。
もう13年も前になる、大学の卒業式の日。
全体の式が終わった後に、各部に分かれて卒業証書を渡される授与式があった。
学部長というんだろうか、その年の学部長はわたしが4年いた間で初の女性教授だった。
彼女が卒業証書をひとりひとりに授与する係で、
彼女は卒業証書と一緒に、ピンク色の小さな花をわたしたち全員に渡していた。
直径10センチくらいの透明のガラスの器にその淡いピンク色の小さな花はたくさんあって、
その2センチくらいの小さな変わった形の花を、そっと手のひらにのせてくれた。
「おめでとう」と満面の笑顔と一緒だったと思う。
わたしは花に気をとられていて、細かいことはもう覚えていない。
だけど、その花は卒業証書以上に強烈なインパクトがあって、
わたしはその後同じ花をどこかで見かけないかと、けっこうあちこち見ていた。
ところが、どこにも見当たらない。
特殊な花なんだろうと思った。
時々、似た花は見かけたけど、大きさや形が微妙に違っていた。
その花をもう二度と見ることもないだろうと思って、花の存在も忘れていた。
そうしたら、まさかうちの近所の名城公園に植わっているとは(人工的に)。
実際のたいつり草は、ミニトマトのように、鈴なりになっていた。
それをひとつひとつそっと取って、つぶれないように器に入れるのは、
けっこうな神経を使う作業だったに違いない。
しかも、すぐに駄目にならないように、多分当日の朝その先生は摘み取ってくれたんだろうと思う。
たいつり草という名前を知れたこともうれしかったし、
卒業式のシーンを色々思い出せたのもうれしかったし、
今頃になってわかった先生の気遣いもうれしかった。
*バナップル*
きのう、うちの近所の八百屋で目にした「バナップル」。
2、3ヶ月前から、バナナレモンスムージーにはまり出して、バナナを定期的に買うようになった。
1袋に5本くらい入っていて100円のものであれば、それ以上のこだわりはない。
「100円」と大きく書かれたカードが目に入って、いつものバナナだと思ったけど、
なぜかやたらと丁寧に包装されていて(贈答用のメロン並み)、
さらには「バナップル」と大きく書かれたシールまで貼られている。
聞き慣れない名前に、ひとつ手に取ってよく見ると
「リンゴ風味のフルーティーデザート」とある。
これは、わたしの記憶どころか、この話をしても誰にも信じてもらえなかった、
幻のリンゴ味のバナナだと推測した。
日本では、多分 banana と apple を組み合わせて
「バナナアップル→バナップル」となったんだと思う。
それは、地球の裏側、ドミニカ共和国でわたしは初めて目にした。
当時住んでいた家の人が、親戚からもらったと言って、わたしに2、3本バナナをくれた。
「それね、『ギネオ・マンサーナ』(ギネオ=バナナ、マンサーナ=リンゴ)っていうの」
と教えてくれて、実際に食べてみると、ほんとうにリンゴ味のバナナだった。
衝撃的なおいしさで、ドミニカでマンゴと並ぶわたしの中で大好きな果物だった。
ところが、バナップルことギネオ・マンサーナは、まず店頭にもその辺の市場にも並んでない。
わたしも2年いた間に、3回くらいしかお目にかかれなかった。
それも全部家の人とか仕事の人経由で、一体どこにあるのか皆目見当もつかなかった。
この話を何人かの日本人の人にしたけど、
誰一人食べたことがなく、そんなの本当にあるの!?というレベルの幻の果物だった。
それが、まさかまさかのうちの近所の八百屋でギネオ・マンサーナと思しき果物を目にするとは。
違っていてもいいから・・・と腹をくくり、2袋買った。
ドキドキしながら1本食べた。
まだ熟しきってないからわたしがドミニカで食べたものより味は薄かったけど、
紛れもない、バナップルことギネオ・マンサーナだった!
4年近く八百屋に通っているけど、バナップルを見たのは今回がはじめて。
幻の果物ではなく、ほんとうに実在していたんだ!と感動した。
買ったのは、フィリピン産だったけど、こうして感動の再会を果たし、
思い出の中にしか存在しなかった味を追体験できるなんて・・・
ちなみに、これはもったいなくて、スムージーにはせず、
そのまま素材の味を堪能すると決めた。
*『情熱の薔薇』の歌詞*
本を読んでいたら、その中にザ・ブルー・ハーツにインタビューしたみたいなことが書かれていた。
突然ブルーハーツの音楽を聞きたくなって、youtubeで検索してかけた。
3曲目『情熱の薔薇』がかかって
「答えはずっとおくの方、こころのずっとおくの方」
「花びんに水をやりましょー」
という歌詞が耳に届いて、それをそのまま頭の中で文字に直した時、
はっと思いついて、ある友達からの手紙を夢中で探した。
おととし位に、実家で手紙を整理をした時、
彼女がくれた数通の手紙がとっても良くて名古屋に持ち帰った。
そこに「♪答えはずっーと奥の方 心のずっーと奥の方♪
♪花びんに水をあげましょ 心のずっーと奥の方♪」
と書かれていて、手紙の内容に沿っていたけど、何の詩だろう?とずっと思っていた。
当時の手紙を彼女は、多分『情熱の薔薇』を聞きながら書いてくれてたんだろう。
今日改めて彼女の手紙を読んで、わたしはぼろぼろ今さら泣いてしまった。
「2週間のイギリス滞在の中で、自分が何を見て、何を学ぶかはわからない。
何も見つからないかも。
というよりも、何かを見つけるために行く事が目的でもなく、
何かを学ぶことが目的ではないみたい。
それは、結果としてついてくるんだろうなぁーと。
それより大事だった事は、『私が行きたいから行く!!』と、
自分の心にわがままになれた事。
今自分が何したいかを自分自身に、訪ねた時。
素直に自分の心がそういった事を、実現したかった。
『今が最高』であるために。」
見たら、10年前の春の消印になっていた。
色んなことが重なって
(ブルーハーツインタビューということを本で目にして、ブルーハーツ聞いて、
『情熱の薔薇』の歌詞にたどりついて、友達の手紙を探し出して・・・)
こうして今のわたしにぴったりなメッセージをもたらしてくれることもある。
たいつり草も、バナップルも、『情熱の薔薇』の歌詞と知らずにいた友達の手紙も、
わたしの記憶の中だけにとどまっているものだった。
記憶の外に出ることも、
目に見える形でそれらと再会を果たすことも、
再会することでよみがえる様々な思い出も、
どれも少し前には想像もしていなかったことだ。
特に気にも留めないちいさな出来事たちが、うんと時間が経って何かの拍子に思い出された時、
ものすごい財産として残っている。
そのときどきは、それが後に財産になるだなんて知らずにやり過ごしていたけど、
なんだろう、言葉にできないすごいエネルギーを持ってわたしの前に再び現れる。
そして、底知れぬ元気の素ややさしさみたいなのをプレゼントしてくれる。
「たいつり草」、気になって思わず検索してしまったよ。
返信削除本当に、釣竿にミニ鯛がたくさんかかってるみたいで
可愛らしい花だね~。 思わずにっこり。
「バナップル」は、名前を聞いたことはあるのだけれど、
実物はまだ一度も見たことないなぁ。
リンゴはやっぱり、あのシャキシャキフレッシュな歯触りと
セットだから、バナナ的しっとりもったり感+リンゴの味、
ってのが全然想像できない! 新潟でも売ってるものだろうか??
「情熱の薔薇」・・・うぅ、この歌に私は弱い。
カラオケで男性がこれを歌っていると、「この歌を選ぶあたり、
なんか素敵な人かも!」と勝手に錯覚しがち・・・(笑)。
素敵なのは、歌詞なんですよなぁ。
なんて・・・つられてぽろぽろしてみました。 (^^)