2018年9月21日金曜日

日帰り旅行のような仕事【中編】

初日の仕事で、時間の使い方も行く場所の風景もついでの体験たちも色々楽しんだけれども、実は一番の感動ポイントはそれらよりも「遊び感覚で働いてる」そちらの方だった。

本来の目的は「労働」であって、せんべい屋のアウトレットに寄るとか、栗拾いをするとかじゃない。

配っている間も、素敵なお庭や家、花や木々、初めて触れる風景、見かけた人たちの人間観察…と楽しいこと満載だった。

配り物の方がついでで、それ以外のことに私は全力で楽しんでいた。

だから「働いてる」という感覚が全くなかった。

自分で色々体験してわかったことがある。

塾の仕事の時にもチラシ配りの仕事があった。

私はその時も、新しい町並みを見たり素敵なお宅やお庭を見るのはすごく好きだった。

だけど当時は今回と違って、自分のペースではないペースで配らないと終わらなくて、それが苦痛で仕方なかった。

言うなれば、今回と同じ量のものを今回の半分以下の時間で配り、さらにはアパート・マンション・団地については中に入れるタイプの時は集合ポストではなく必ずドアに付いてる郵便受けに入れてこないといけなかった。

団地に当たった日なんかは最悪で、階段で5階6階まで上がっていた。

体育会系且つ男性9割の職場は、女の人にも容赦なく、週に最低2回はあるチラシ配りが本当に大嫌いだった。

反対の体験もしているから、今回の配り物の仕事が、まるで違う仕事のように感じる。

2日目が終わった今日、昨日とは違う感想を持った。

歩くのも配るのも動作として嫌いではない。

歩くのはむしろ好きに入る。

だけれど、私は今日の当たった地域は、全く面白みのない風景であることに気付いた。

基本的に家と2階建てのアパートしかない。

午前中はそこから4、5キロ離れたところを回った。

その午前中の地域は、昨日住宅街の中で森のような庭を見つけたところで、今日も今日でまた別の風景やオシャレな賃貸物件を見つけて、見飽きることがなかった。

午後から担当したところが全く面白みがなくて、町の空気が流れていない感じだった。

いくら回っても面白みがないから、最後の方はぐったりとしてしまった。

風景とか空気感が大事なのは身にしみて感じた。

余談だけれど、そのつまらない町の中で配り物をしてたら、小学生の女の子2人組にガン見されヒソヒソ話もされ、どうやら不審者と思われたようだった。

確かに帽子を目深にかぶって、紙(地図)見てキョロキョロしてたらおかしく思われても仕方ない。

通報でも何でもしてくれ!と思ったけれども、挨拶する前に人を疑えと普段から教え込まないといけないような地域なんだろうなぁと感じた。

それはいいとして、私の中で遊び感覚で何かをする時に、ポイントがあることがわかった。

その場の景色や雰囲気が好きだと、それだけで楽しくなれる。

その景色や雰囲気がとても大事なポイントなんだとわかった。

その好きになれない風景の中を歩いていた時に、ふと今の朝ドラの中のワンシーンを思い出した。

佐藤健が「律(りつ)」という名前で主人公の女の子と同じ日に生まれた幼なじみとして登場する。

律は子供の頃から発明することが大好きで、最終的にロボットを開発する国内最大手の会社に就職した。

途中まではそれで順風満帆だったけれど、ロボット開発は打ち切られ、律は管理職になった。

本社で人件費の削減とかそんなことばっかりの決済の書類に目を通す日々で、さらに律は大きな窓がたくさんあるビルなのに、開けられない窓だから風を感じることができないことに違和感を覚えていた。

律は安定を捨てて、「そよ風の扇風機」を自分で作ることにした。

自分の新しいオフィスは、廃校になった小学校を色んなベンチャー企業や起業家たちが使えるところで、律はその学校の教室とかによくある大きな窓とそこから入ってくる風に惚れている。

周りの登場人物たちにも「風を感じられるのがいい」とよく言っていた。

そんなシーンを思い出していた。

私はそのシーンを初めて見た時、「これだ!」となった。

名古屋で派遣をしてた時のこと。

1つはすごく設備の整ったオフィスビル、もう1つは名古屋駅にあるツインタワーと呼ばれる高層ビルの40何階とかで、上から数えて数階目のところだった。

どちらも最新だったり、整った空間ではあった。

だけど私はどちらも全く好きになれなくて、しょっちゅう大きな窓の外を見ては「今外に出るとどんな風だろう?暖かいかな?それとも寒いかな?風は冷たいかな?風は吹いてるかな?」と想いを巡らせていた。

西陽が当たるとパソコンの画面が見づらいという理由で、いつもブラインドは閉められていた。

外の景色も見ないで、何が楽しいんだろう?としょっちゅう思っていた。

きれいで整ったオフィスは、人生の楽しみの半分以上が失われてる、と思った。

その時のことを思い出した。

午後に回った地域は、高層ビルとは全く趣きが違うけれど、風が通らないのは一緒だった。

外にいるのに風を感じられない、そんな場所があることに驚いた。

当たり前だけれど、風が通るには通り道が必要になる。

その地域は、やたらとかくかくとしていて、そして隣りの建物とも近い。

日が当たるようにするためだと思うけれど、それぞれの家の位置が微妙にズレていて、そのズレがさらに風が通らないような設計になってるように見えた。

風が通っても、隣りの家の壁が当たる、だから風が運ばれない、そんな風だった。

そして、全体的に地域がギスギスしている。

自然の風通りも悪かったけれど、そこに住む人たちの風通しも悪そうだと、勝手な思い込みだけれどそう感じた。

午前中の地域は、開放感があって、風もよく吹いていた。

配り物に該当しないお宅の前を通ったら、犬にめちゃくちゃ吠えられた時があった。

外で飼われている犬も久しぶりに見たなぁと思いつつ、上の方から飼い主さんに「こらこら静かにしろ!」みたいなことを犬は話しかけられてた。

網戸越しで飼い主さんの顔はよく見えなかったけれど、目がお互いに合ったから、どちらからともなく会釈をした。

会釈を自然にできる、そういう風通しのある地域なんだと思う。

だから歩いていても気持ちが良い。

時々家から出てくる人たちと遭遇しても、緊張せずにすれ違える。

午後は反対で、悪いことなんか何1つしていないけれども、人とすれ違うごとにジロジロ見られる風で、すごい居心地が悪かった。

みんなとは言わないけれども、そういう人たちが多くて、早くそこを退散してしまいたかった。

初日はもっともっとローカルな地域で実にのんびりとしていたから、風景も風通しも抜群に良かった。

2日目も働いてる感覚はなかったけれど、さらに空気感や雰囲気が大切なんだというのがよくわかった。

いずれにしても「働いてる」感覚がない働き方に私はすごく感動した。

完全に1人仕事だというのも大いに関係していると思うけれど、働いてると言うより町探訪をしている気分だった。

【9月15日 バイト2日目】

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